東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)220号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決の認定判断は正当であつて、原告がその取消事由として主張するところは、以下説示するとおり、理由がないものというべきである。
前記本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証ないし第五号証(本願発明の願書添付の明細書及び手続補正書)を総合すれば、本願第一発明は、二列の転動体を備え、レースの一方が一体に形成されたころがり軸受を有するピニオン用軸受装置において、「主として、特に支持した軸から大きな一方向だけの曲げモーメントを吸収することができると共に、軸方向および半径方向の重荷重を吸収することができ、しかも対応する目的の早くから知られた軸受装置よりも小さな寸法を有する軸受装置を提供すること」を目的として(本願明細書第四頁第一六行ないし第五頁第一行)、二列の転動体のうち、ピニオンに近い位置の軸受の転動体としてテーパころの列を用い、ピニオンから遠い位置の軸受の転動体として玉の列を配設した前示本願発明の要旨1記載のとおり(特許請求の範囲1記載に同じ。)の構成を採択することによつて、摩擦損失が大きいものの重荷重を支持するに適したテーパころ軸受と重荷重を支持するにはテーパころに劣るが、軌道部に対し非常に大きな角度接触が可能で、摩擦損失が少ない玉軸受とをそれぞれの利点を生かすべく組み合わせて軸方向及び放射方向(半径方向)の各負荷を支持できるようにするとともに軸頸を短くするようにし、しかも、テーパころ軸受を玉軸受よりピニオンに近い位置に配設して負荷の支持及び潤滑の便宜を図つたところに特徴のあるものであり、右構成により原告指摘の(イ)ないし(ホ)の作用効果を奏することが認められる。
ところで、優先日前に日本国内において頒布された刊行物である(このことは、原告の明らかに争わないところである。)第一引用例(特開昭四九―一〇三〇三八号公開特許公報)に、本件審決認定のとおりの記載内容があり、本願第一発明と第一引用例記載のものとの間に本件審決認定のとおりの一致点及び相違点があることは原告の認めるところ、原告は、右相違点についての本件審決の認定判断を争うから、この点について検討するに、成立に争いのない甲第七号証(米国特許第二、八三九、三四三号明細書)によれば、優先日前に頒布された刊行物であることについて原告の明らかに争わない第二引用例には、二列の転動体(ニードルローラーと玉)を配設した軸受装置において、その一方の列に設けられた転動体を玉にし、その玉がレースに対して角度接触するように形成した軸受装置の構成が記載されており(この点は、原告の認めるところである。)、その明細書の発明の詳細な説明として、「ニードル軸受は、その最も重要な利点、すなわち、その半径方向の寸法の小ささを利用して多くの場所で用いられている。しかしながら、しばしば、軸方向推力を該ニードル軸受の外部で支持する必要があつた。それゆえ、これまで、軸方向ローラー軸受を半径方向ニードル軸受と組み合わせることが提案されてきた。これまでの、この提案は、軸受径を増大させ、また、しばしば付加的な構造部品を必要としたため、満足を与えるものではなかつた。したがつて、本発明の目的は、半径方向の寸法を増大させることなく、また、付加的な構造部品の製造、取付けを必要とすることなしに、半径方向ニードル軸受と軸方向ローラー軸受との組み合わせを可能にすることにある。」(同明細書第一欄第一五行ないし第三一行)との記載のほか、第3図や第5図ないし第7図には、軸の端部の反対側に、本願第一発明のピニオンに相当する動力伝達用部材を取り付けることとし、その動力伝達用部材に近い位置の転動体としてころを用い、遠い位置の転動体として玉を配設した構造の軸受装置が示されていることが認められる。右認定の第二引用例の記述及びころと玉のもつ本来の形態の違いに照らすと、第二引用例には、二列の転動体を配設した軸受装置において、動力伝達部材に近い一方の列の転動体をころとし、動力伝達部材から遠い他方の列の転動体を玉とし、その玉がレースに対して角度接触するように形成して軸頸を短くするようにするとともに、放射方向(半径方向)及び軸方向にかかる力(軸方向推力)に対して抗し得るようにした構成及び技術的思想が十分に開示されているものというべきである。ところで、前認定の事実によると、本願第一発明は、第一引用例記載のピニオン用軸受装置がテーパころを二列にしたものであるのに対し、第一引用例記載のもののピニオンから遠い位置のテーパころを玉に代えることによりピニオン用軸頸を短くし、かつ、玉がレースに対し角度接触するように形成して、ピニオン用軸の半径方向及び軸方向の負荷を支持するとともに潤滑の便宜を図つたものとみるを相当とするところ、この点の技術的思想は前認定のとおり第二引用例に開示されているのであるから、右事実を参酌すると、第一引用例記載のピニオン用軸受装置において、その二列のテーパころのうちピニオンから遠い位置のテーパころに代えて第二引用例記載のような玉軸受にすることは、本願発明に属する技術分野における通常の知識を有する者が容易になし得たことと認められる。この点、原告は、第二引用例に記載された軸受装置は本願第一発明とその目的ないし技術的課題を異にするものであると主張するが、本願第一発明の目的ないし技術的課題は、前示の第二引用例の構成及び技術的思想から十分に把握し得るものと認められるから、この点の原告の主張は採用することができない。
次に、原告は、本件審決が、本願第一発明の奏する顕著な作用効果を看過した旨るる主張するが、前認定のとおり、第二引用例には、二列の転動体を配設した軸受装置において、一方の列の転動体をころとし、他方の列の転動体を玉として軸頸を短くするようにするとともに、その玉がレースに対して角度接触するように形成して半径方向はもとより軸方向にかかる力(軸方向推力)に対して抗することができるようにした、本願第一発明の技術的特徴を開示する構成が記載されている以上、第一引用例記載の二列のテーパころを転動体として用いたピニオン用軸受装置について、ピニオンから遠い位置のテーパころに代えて第二引用例記載の玉軸受を用いる構成を採る場合、本願第一発明の奏する前認定の(イ)ないし(ホ)の作用効果は、上記構成に伴うもので、当然に予想し得るところというべきであり、本願第一発明に特有の顕著な効果ということはできず、したがつて、本件審決が本願第一発明の作用効果に言及しなかつたからといつて、このことは何ら本件審決を違法ならしめるものではなく、原告の右主張は採用することができない。
そうすると、本件審決の認定判断は、正当であつて、本件審決にはこれを取り消すべき違法の点はない。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
1 外レースと内レースおよびそれらの間に配置された二列の転動体を備え、前記レースの一方が一体に形成されたころがり軸受を有するピニオン用軸受装置において、前記転動体の列の一方がテーパ状レース軌道部上を転動するテーパころを有し、また転動体の他方の列が玉を有し、これらの玉が玉と角度接触するように形成されたレース軌道部上を転動し、前記テーパころの列が玉の列よりもピニオンに近く位置決めされていることを特徴とするピニオン用軸受装置。
2 前記レースの一方に、ねじ部と、該レースを回転させる手段が設けられている1記載のピニオン用軸受装置。
3 ハウジングの円筒状座内において軸方向に移動できる一体成形外レースを有し、そしてねじ部が前記円筒状座に関連して前記ハウジングに形成され、前記ねじの設けられたハウジング部分が外レース上の対応ねじ部と協働するように設けられている1記載のピニオン用軸受装置。
4 少なくとも一つのレースに、隣接要素への固定手段を有するフランジが設けられているところの1または2記載のピニオン用軸受装置。
5 外レースがその両端部の一つにフランジを備える4記載のピニオン用軸受装置。
6 フランジがテーパころ列を有する側に設けられているところの4または5記載のピニオン用軸受装置。